大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)3997号 判決

原告(反訴被告)

四戸幸裕

被告(反訴原告)

清田和義

主文

一  被告は原告に対し金一六五万九五〇六円及びこれに対する昭和五六年一二月二九日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は被告に対し金八八万三〇〇三円及びこれに対する昭和五六年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを二分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

五  この裁判は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金三一三万二七八〇円およびこれに対する昭和五六年一二月二九日以降支払い済みに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、金一九六万二二三〇円およびこれに対する昭和五六年一二月二九日以降支払済みに至る迄年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 被告は、左記交通事故を起こした。

(一) 日時 昭和五六年一二月二九日午後六時頃

(二) 場所 名古屋市中区千代田二丁目一五―一四

堀田高岳線路上

(三) 態様 被告は普通自動車(名古屋三三ろ三七五二番―以下被告車両という)を運転し同線を北から進行してきたところ、同所の信号が赤に変わつたにもかかわらず、これを無視し、前方左右の注意を怠つて進行し、折から青信号に従い原動機付自転車(名古屋市西れ七九四番―以下原告車両という)を運転し北東から進行してきた原告と衝突し、原告に右下腿複雑骨折(開放性)、左膝打撲の負傷を与えた。

2 被告は右自動車を自己のため運行に供していた。

3 原告の受けた損害

(一) 損害額 金四八〇万三四七五円

(1) 治療費 一七八万七五五五円

(2) 松葉杖、下肢装具 四万一九〇〇円

(3) 付添費 二六万七二二〇円

(4) 休業損害 七〇万円

月収七万円 一〇ケ月休業

(5) 雑費 一三万六八〇〇円

六〇〇円 九〇日間

四〇〇円 二〇七日間

(6) 慰藉料 一八七万円

昭和五六年一二月二九日より同五七年一〇月二一日まで一〇ケ月間

(二) 過失相殺 二〇パーセント

(三) 支払額 金九六万円

(四) 残額 金二八八万二七八〇円

(五) 弁護士費用 金二五万円

(六) 総損害額 金三一三万二七八〇円

4 よつて、原告は被告に対し、自賠法三条および民法七〇九条に基づき損害賠償金三一三万二七八〇円およびこれに対する昭和五六年一二月二九日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

1 請求原因第1項(一)、(二)の事実は認め、(三)は否認。

2 同第2項は認める。

3 同第3項のうち(三)は認め、(二)、(六)は否認し、(一)、(四)、(五)は不和。

4 同第4項は争う。

三  抗弁本件事故は請求原因第1項(一)、(二)の日時、場所で被告が青信号で交差点内に進入したところ、原告運転の原動機付自転車が赤信号であるにもかかわらず、信号待ち停車していたタクシーの陰から飛び出したため、被告は避け切れず衝突したものである。

四  抗弁に対する答弁及び原告の主張

抗弁事実は否認する

1 原告は原動機付自転車(原告車両)を運転して市道赤萩町線を千早交差点方向から鶴舞交差点(以下「本件交差点」という。)に至り、同交差点を上前津方向に右折して横断するため青信号に従い一旦鶴舞公園からの道路を横断し、同道路横断歩道の東側停止線(以下「停止線」という。)で変速ギアをニユートラルにして両足を着地して西向きに停止した。その時、鶴舞公園からの道路には原告車両の右後方に普通自動車(以下「訴外自動車」という。)が停止していた。

2 本件交差点の信号表示時間

鶴舞公園からの道路の横断歩行者用信号が青から赤に変わつた時から約四秒後に、市道赤萩町線の車両用信号が黄になり、その表示が約五秒間続いた後、同信号は赤になり、その約五秒後に鶴舞公園からの道路より上前津方向への信号が青に変化する(右五秒間はいわゆる全赤ということになる。)

3 鶴舞公園からの道路の横断歩行者用信号が赤に変わり、その後市道赤萩町線の車両信号が黄色に変わつた後、その表示の終わりころ、原告車両の後方にいた訴外自動車が発進し、原告車両を追越して行つた。原告は変速ギアをローに変換し、原告車両はその約三秒後に発進し訴外自動車の斜め後を走る形となつて進行した。

訴外自動車は別紙図面〈4〉点にある被告車両を発見し、被告車両との衝突を避けるため、〈A〉点で停止した。しかし原告は被告車両が訴外自動車に隠れて見えなかつたため、訴外自動車が停止して初めて被告車両を間近に発見し、同図面〈×〉点で被告車両と衝突した。

4(一) 停止線から同図面〈×〉点までの距離は約一六メートルであり、原告車両の平均速度は時速四ないし五キロメートル(秒速一・一一ないし一・三八メートル)であると確認され、その間の所要時間は約一一・六秒である。

(二) 停止線から同図面〈A〉点までの距離は約一四メートルで、訴外自動車の平均速度は時速約五キロメートルであり、その間の所要時間は約一〇秒である。

(三) 訴外自動車は市道赤萩町線の信号が黄で、その終わりころに発進したのであるから、〈A〉点に至る前に同信号が黄から赤に、鶴舞公園から上前津方向の信号が赤から青に変わつたことになる。

(四) 原告車両は、訴外自動車が原告車両を追い越して行つてから約三秒後に発進し、その約一二秒後に〈×〉地点に至つたものであるから、鶴舞公園から上前津方向への信号が青に変わつて約五秒ないし一〇秒後に〈×〉点に至つたことになる。

(五) 被告車両は同図面〈1〉点から〈3〉点を時速約四〇キロメートル(秒速一一・一メートル)、〈3〉点から〈4〉点を時速約三〇キロメートル、(秒速八・三三メートル)で進行したというのであるから、〈1〉点から〈3〉点まで(三八・二メートル)約四秒、〈3〉点から〈4〉点まで(一七メートル)約二秒、よつて〈1〉点から〈4〉点まで約六秒を要したことになる。

被告車両が〈4〉点のとき、訴外自動車は〈A〉点にいた。訴外自動車は〈A〉点に至る約一〇秒前(市道赤萩町線の信号が黄色の終わり頃)停止線を通過した。従つて被告車両が〈4〉点に至る約五、六秒前、即ち同図面〈1〉点と〈2〉点の間にいる時に、市道赤萩町線の対面信号は黄から赤に変わつたことになり、更にその約五秒前〈1〉点の手前約五〇メートルの地点で同信号は青から黄に変わつたことになる。

被告車両の速度は時速約四〇キロメートルというものであるから〈1〉点の手前約五〇メートルで市道赤萩町線の信号が黄色に変わつたとしても、〈1〉点で十分に停止できる。

5(一) 被告は被告車両が同図面〈3〉点の時、市道赤萩町線の信号が黄色に変わり、それから約二秒後被告車両が〈4〉点の時、訴外自動車が〈A〉点にいるのを発見したという。しかし前記4(二)のとおり訴外自動車は〈A〉点に至る一〇秒前に停止線を通過したものである。

被告主張によると、訴外自動車は市道赤萩町線の信号が黄色に変わる八秒以上前の時点で発進したことになる。

本件事故当時、本件交差点は年末で午後六時ごろのラツシユ時であり、自動車が頻繁に進行していた。このような時、自車の交差道路が青信号表示であるのに発進して横断しようとすることは直ちに事故を引き起こし自殺行為に等しい。訴外自動車運転者としては、交通頻繁な交差点では早くとも交差道路の信号が黄色から赤と変わつてから(自己の通行道路の信号が青に変わるものと考えて)発進するものであり、市道赤萩町線の信号が青の時に訴外自動車が発進したことはありえない。

(二) 被告は被告車両が同図面〈2〉点にいる時訴外自動車が〈A〉点で停止しており、被告車両は左ハンドルであるから、左前方の見通しはよくきくと供述する。

しかし訴外自動車は停止線後方にいたのが、発進して、被告車両が〈4〉点に至つた時には〈A〉点に至つたものであり、被告は左前方の注意を怠つていたものである。

左ハンドル車は右側前方が、フロントガラスからは広く見え、左側前方は窓枠、ドアミラーで視界が遮られ視界が狭い。

被告車両は左ハンドルであるから左前方の見通しが悪く、そのため訴外自動車の状態を見誤まつたのである。

6 以上のとおり、被告車両が本件交差点に進入する前に、その対面通行信号は黄色に変わり、被告車両は同図面〈1〉点で十分停止できる状態にあつた。一方原告車両は本件交差点に進入し、〈×〉地点に至る前にその進行信号は青に変わつていたものである。

よつて本件事故の過失割合は、原告二〇パーセント、被告八〇パーセントである。

五  原告の主張に対する答弁

1 原告の主張は争う。

2 原告は自己の進行する方向の対面信号を見ることなく、隣の車(訴外自動車)の動きにつられて発進したものである。

(反訴)

一  請求原因

1 原・被告は、本訴請求原因1記載の日時、場所において交通事故を起こした。

しかし、その態様は原告が本訴で主張する内容とは異なり、次のとおりであつた。

すなわち、被告は普通自動車(名古屋三三ろ三七五二―被告車両)を運転し、制限速度内の時速四〇キロメートルのスピードで千早方面から南進して鶴舞の交差点にさしかかつたところ、折から直進の信号が青色を表示していたため、前記スピードで同交差点に進入した。一方、原告は、同交差点を鶴舞公園の方から西進すべく原動機付自転車(原告車両)にて走行してきたところ、赤信号のため同交差点手前で一旦停止したが、同じく信号待ちのため原告の右側で停止していたタクシーが発進するかのように少し動き出したため、原告はそれに引きずられて、まだ赤信号であるにもかかわらず、同交差点に進入した。そのため原告車両は被告車両の前面に飛び出す形となり、衝突したものである。

2 前記事故態様からみて本件交通事故の原因は、原告の信号無視による交差点進入によるもので、原告に全面的過失があることは明らかである。

3 被告は、本件事故のため被告車両(リンカーンコンチネンタル)の前部を損傷する被害を受けた。右補修費用を業者に見積もらせたところ、金一九六万二二三〇円であつた。

ところで、被告は、本件事故車の物損を補修することなく、いわゆる「格落ち車」として売却処分したが、当時、物損がなければ最低金三〇〇万円以上で売却できたところ、右物損の影響で金一〇〇万円にて売却せざるを得なかつた。

そのため、物損により被告が被つた損害は金二〇〇万円程度にのぼる。

4 よつて被告は原告に対し、第3項の損害金のうち金一九六万二二三〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五六年一二月二九日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1 請求原因第1項中、事故の日時、場所、原告・被告各運転車両は認め、その余は否認する。

2 同第2項は争う。

3 同第3項は不知。

第三証拠

本件記録の調書中の各書証目録、各証人等目録の記録と同一であるから、これらを引用する。

理由

一  本訴請求原因第1項(一)、(二)(本件事故発生の日時、場所)第2項(被告が被告車両の運行共用者であること)、第3項(三)(既払額)の事実は当事者間に争いがない。

二1  成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場付近道路は、市街地で交通頻繁であり、見とおしはよく、夜間でも明るく、路面は舗装され、平坦であり、湿つており、交通規制として時速五〇キロメートルの速度制限及び駐車禁止となつている。

被告が運転していた車両はフオード・リンカーン(普通乗用自動車名古屋三三ろ三七五二)で、長さ五・八六メートル、幅二・〇三メートル、高さ一・三九メートルで、ハンドル位置は左であり、本件事故により左前方向指示器破損、左前ナンバープレート曲損等の破損が生じた。

原告が運転していた車両はホンダ製原動機付自転車(名古屋市西れ七九四)で長さ一・七九メートル、幅〇・六五メートル、高さ〇・九五メートルであり、本件事故により右後部リヤクツシヨン曲損、右横マフラー擦過、左バツクミラー取れ、右バツクミラー破損、燃料タンクのずれ、クラツチレバー折れ、左ハンドルグリツプ擦過、前照灯カバーの左側擦過の破損が生じた。

(二)  原告は前記原動機付自転車(原告車両)を運転して市道赤萩町線を千早交差点方向から本件交差点に至り、同交差点を上前津方向に右折して横断するため、一旦鶴舞公園からの道路を横断し、同道路横断歩道の東側停止線で変速ギヤをニユートラルにして両足を着地して西向きに停止した。

(三)  鶴舞公園からの道路の横断歩道東側の停止線から別紙図面〈×〉点までの距離は約一六メートルであり、右停止線から同図面〈A〉点までの距離は約一四メートルである。訴外自動車が同図面〈A〉点に停止し、原告車両がこれを追い抜いた時、訴外自動車と原告車両との間隔は一メートル以上空いていた。

被告は市道赤萩町線を千早交差点方面から別紙図面〈1〉点、〈2〉点、〈3〉点、〈4〉点を順次通過して進行し、原告は鶴舞公園からの道路を西方に向かい進行したが、訴外自動車が同図面〈A〉点に停車していたことにより視界が遮られ、同図面〈P〉点に被告車両、〈P'〉点に原告車両が至つた時初めて互いに相手方を発見しうる状態になつたが、原・被告共互いに前方注視が不十分であつたため、相手車両の発見が遅れ、被告は同図面〈4〉点に至り、〈ア〉点にいる原告車両を発見して急停車の処置をしたが間に合わず、同図面〈×〉地点において被告車両の左前部が原告車両に衝突した。

別紙図面記載の各地点間の距離は同図面記載のとおりである(単位メートル)。

2  被告本人尋問の結果によれば、被告は別紙図面〈1〉点付近(本件交差点外)では時速四、五〇キロメートル位で走行し、同図面〈3〉点から〈4〉点(本件交差点内)では時速二、三〇キロメートルで走行していたことが認められる。

三  本件事故の態様について

1  原告は当裁判所において「原告は鶴舞公園からの道路の横断歩道の東側停止線で西向きに停止していたが、鶴舞公園からの道路の横断歩行者用信号が赤に変わり、その後、市道赤萩町線の車両信号が黄に変わり、その表示の終わりころ、原告車両の右斜後にいた訴外自動車がエンジンを吹かして発進し、原告車両を追い越して行つた。原告は変速ギアをローに変換し、訴外自動車発進の約二、三秒後に原告車両を発進させ、訴外自動車の斜め左後方を進行した。

訴外自動車が別紙図面〈A〉点で停止し、原告は右を見ながらゆつくりと原告車両を進行させ、訴外自動車を追い抜いたが、右方に訴外自動車が停止していたため、右方の視界が妨げられ、右方から進行してきた被告車両の発見が遅れ、同図面〈×〉点で被告車両と衝突した。本件交差点の信号表示時間は、鶴舞公園からの道路の横断歩行者用信号が青から赤に変わつた時から四秒弱後に市道赤萩町線の車両用信号が黄になり、その表示が五秒弱続いた後に同信号は赤になり、その約五秒後に鶴舞公園からの道路より上前津方向への信号が赤から青に変化する。」旨供述しているが、右供述に不合理、不自然な点は見当たらない。

2  前記一、二認定事実及び原告の当裁判所における供述(原告本人尋問の結果)によれば、次のような合理的蓋然性が存在することが認められる。

(一)  停止線から別紙図面〈×〉点まで(約一六メートル)の間における原告車両の平均速度は時速約五キロメートル(秒速約一・三八メートル)であると推認されるから、原告車両が右各地点間を移動するのに要した時間は約一一・六秒である。

(二)  停止線から同図面〈A〉点まで(約一四メートル)の間における訴外自動車の平均速度は時速約五キロメートル(秒速約一・三八メートル)であると推認されるから、訴外自動車が右各地点間を移動するのに要した時間は約一〇秒である。

(三)  訴外自動車は市道赤萩町線の信号が黄色表示の終わりころに発進したのであるから、同車発進後間もなく(遅くとも二、三秒位後には)同信号の表示が黄色から赤色に変わり、その約五秒後に鶴舞公園から上前津方向(西方)行の対面信号が赤色から青色に変わり、その後、同自動車は同図面〈A〉点に至つたことになる。

(四)  原告車両は訴外自動車が原告車両を追い越して行つてから約二、三秒後に発進し、その約一一・六秒後に〈×〉地点に至つたものであるから、鶴舞公園から上前津方向行の対面信号が青に変わつて約五・六秒ないし九・六秒後に〈×〉点に至つたことになる。

(五)  被告車両は同図面〈1〉点から〈3〉点までを時速約四〇ないし五〇キロメートル(秒速一一・一メートルないし一三・八メートル)、〈3〉点から〈4〉点までを時速二〇ないし三〇キロメートル(秒速五・五五ないし八・三三メートル)の各速度で進行したというのであるから、〈1〉点から〈3〉点まで(三八・二メートル)約三・四ないし二・八秒、〈3〉点から〈4〉点まで(一七メートル)約三ないし二秒、よつて〈1〉点から〈4〉点まで約六・四ないし四・八秒を要したことになる。

(六)  被告車両が同図面〈4〉点に至つた時、訴外自動車は〈A〉点にいた。訴外自動車は〈A〉点に至る約一〇秒前(市道赤萩町線の対面信号が黄色の終りころ)停止線を通過した。従つて被告車両が〈4〉点に至る約七、八秒前、即ち同図面〈1〉点付近(〈1〉点より少し北東寄り)にいる時には、市道赤萩町線の対面信号が黄色から赤色に変わり、更にその約五秒前、即ち右〈1〉点付近の手前(北東方向)約五五・五ないし六九メートルの地点にいる時には同信号が青色から黄色に変わつたことになる。

被告車両の同図面〈1〉点付近ないしその手前(北東)走行時の速度は時速四〇ないし五〇キロメートルであるから、市道赤萩町線の対面信号が青色から黄色に変わつた時点(地点)で適切な制動措置をとれば、被告車両は同図面〈1〉点で安全に停止できた筈である。

3  被告は当裁判所において「被告は別紙図面〈1〉点で青信号を確認し、同図面〈2〉点で左方道路の訴外自動車を見、同図面〈3〉点で対面信号が黄色になつたのを見、同図面〈4〉点で原告車両を発見し、急停車したが間に合わず、〈5〉点付近で原告車両と衝突し、〈×〉点付近で原告車両が倒れた。訴外自動車の位置は同図面〈A〉点より更に左寄りであり、原告車両は訴外自動車に接近していたのでその陰になつて発見が遅れ、原告車両が訴外自動車の影から飛び出して来たので、被告は急停車の処置をした」旨供述するが、これを裏付ける証拠が不十分であり、また甲第一号証(実況見分調書)は被告立会指示の下で作成された(原告は不立会)のに、被告は訴外自動車の停車位置や原告車両との衝突場所につき、同調書と異なつた供述をするなど一部不自然な点もあり、結局、被告主張の「被告車両が青信号で本件交差点に進入したこと」についての証明は不十分といわざるをえない。

四  以上認定の事実を総合すると、被告が信号を見て直ちに適切な制動措置をとれば、別紙図面〈1〉点手前(本件交差点外)で停止できる地点(時点)において対面信号機の表示が青色から黄色に変わつた合理的蓋然性があり、また原告が本件衝突より約六・六ないし九・六秒前、同図面〈×〉点より手前九・一ないし一三・二メートル地点で原告対面信号が青色になつた合理的蓋然性があり、これらの蓋然性を否定するに足る証拠はないから、被告について自賠法三条但書の「自動車の運行について注意を怠らなかつた」旨の免責事由の証明はないというべきである。

しかしながら、原告においても、右側に訴外自動車が停止しており右方の見とおしが悪いのに右前方の安全確認を怠つて進行した過失があると認められ、また原告の供述に基く事実によるも原告が停止線から発車した時の信号は全赤であり、その後二秒ないし五秒後に停止線から二・八ないし六・三メートル前(西)方で対面信号が青色に変わつたことになるから、この点についても原告に過失があり以上を総合すると、本件事故における各当事者の過失割合は、原告側四五パーセント、被告側五五パーセントと認められる。

五  原告本人尋問の結果及び成立に争いがない甲第二号証によれば、次の事実が認められる。

原告は、本件事故により右下腿複雑骨折(開放性)、左膝打撲の傷害を受け、その治療のため、昭和五六年一二月二九日から昭和五七年一〇月二一日迄吉田外科病院に入院した。

六  原告の受けた損害

1  治療費(文書料を含む)

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第四、第五号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証によれば、原告の本件事故による傷害の治療費及び診断書料として合計金一七八万七五五五円を要したことが認められる。

96万+82万5,555+2,000=178万7,555(円)

2  松葉杖、下肢装具

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第六、第七号証によれば、原告は本件事故による傷害により松葉杖、下肢装具の使用を余儀なくされ、そのため合計金四万一九〇〇円を要したことが認められる。

5,200+3万6,700=4万1,900(円)

3 付添看護費

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第八、第九号証、調査嘱託の結果(吉田外科病院)、成立に争いのない甲第一一号証によれば、原告は本件事故による傷害のため入院治療中、昭和五七年一月七日から同年二月六日まで家政婦による付添看護を必要としたが、そのため合計金二六万七二二〇円を要したことが認められる。

4  休業損害

前記認定事実及び原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇号証の一ないし三によれば、次の事実が認められる。

原告は本件事故前、ミシンの販売や集金の仕事をしており、本件事故直前の一か月当り平均給与は四万八六〇六円であつた。

(2万3,233+4万4,199+7万8,387)÷3=14万5,819÷3=4万8606(円)

原告は、本件事故による傷害の入院治療のため、少なくとも九か月二三日間は休業をやむなくされた。

従つて原告の本件事故による休業損害は四七万四七一八円と認められる。

5  入院雑費

原告の前記入院(二九七日間)中に要する雑費は最初の九〇日間につき一日当り六〇〇円、右九〇日を超える部分(期間)につき一日当り四〇〇円と認めるのが相当である。

600×90+400×207=5万4,000+8万2,800=13万6,800(円)

6  慰藉料

前記認定の原告の傷害の内容、程度、治療経過等の事情を総合すると、本件事故による原告の傷害慰藉料は金一八〇万円と認めるのが相当である。

7  以上の各損害を合計すると

178万7,555+4万1,900+26万7,220+47万4,718+13万6,800+180万=450万8,193(円)

となる。

8  過失相殺

前記7の損害額について前記認定の過失割合による過失相殺をすると、次のようになる。

450万8,193×(1-0.45)=247万9,506(円)

9  前記8の損害額から前記の既払額(当事者間に争いがない)九六万円を差引くと一五一万九五〇六円となる。

247万9,506-96万=151万9,506(円)

10  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が本件損害賠償請求訴訟のため、弁護士に訴訟代理の委任をし、相当額の報酬の支払を約したことが認められる。

本件事案の難易、請求認容額、その他一切の事情(不法行為時からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得させないことも含む)を総合すると、金一四万円が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認められる。

11  右9と10の損害額を合計すると一六五万九五〇六円となる。

151万9,506+14万=165万9,506(円)

七  被告の受けた損害

被告本人尋問の結果、証人奥山雅人の証言及びこれらにより真正に成立したと認められる乙第一、第二号証によれば、被告は本件事故のため、前記のとおり被告車両の前部を損傷する被害を受け、右補修費用を修理業者に見積もらせたところ、金一九六万二二三〇円であつたこと、被告は被告車両を補修することなく、いわゆる格落ち車としてこれを金一〇〇万円で第三者に売却したこと、証人奥山雅人(近鉄モータース株式会社営業部員)は本件事故がなければ、被告車両は金三〇〇万円位で売れた筈だと供述していることが認められ、以上によれば、本件事故による被告車両の格落ち損害は前記修理見積金一九六万二二三〇円を下回ることはないと認められる。

右損害額につき前記過失割合による過失相殺をすると次のとおりになる。

196万2,230×(1-0.55)=88万3,003(円)

八  以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し損害賠償金一六五万九五〇六円及びこれに対する本件事故日である昭和五六年一二月二九日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払、被告の反訴請求は、原告に対し損害賠償金八八万三〇〇三円及びこれに対する前同昭和五六年一二月二九日から完済に至るまで前同年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容すべきであり、原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求は理由がないから棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例